A.外科で扱うヘルニアとは俗にいう“脱腸(だっちょう)”のことで、腹壁の弱い部分から内臓(主に腸や大網と呼ばれる脂肪の膜)が袋をかぶって脱出する状態です。発生する部位により、鼠径(そけい)ヘルニア、大腿ヘルニア、臍(さい)ヘルニアなどに分けられます。
最も多いのは鼠径ヘルニアで先天的に起こるタイプと後天的に起こるタイプがあります。いずれのヘルニアも自然に治癒することはなく(先天性の小さなヘルニアは治癒することもあります)、大きくなって痛みを生じたり、脱出した状態が戻りにくくなる場合などは手術による治療が必要です。放置しすぎると腸が脱出したまま戻らなくなり、危険な状態になることがあります。
最近では手術に際して、人工材料(メッシュ・プラグなど)を用いた脆弱部の補強が行われており、術後の痛みは少なく、再発率もかなり低くなっています。
A.まず痔には3つの種類があります。イボ痔(内・外痔核:静脈瘤)、切れ痔(裂肛:排便時の裂傷)、穴痔(痔ろう:肛門腺の感染症)です。これらはすべて痔という漢字がついておりますが、全く異なった原因から生じる病気です。
今回は頻度も多いイボ痔の中でも内痔核についてお話します。直腸末端にはもともと静脈叢という小さい血管の集まりがありますが、そこに血液が溜まって血管が拡張して直腸末端がイボのように脹れるのが内痔核です。症状は肛門出血、肛門痛、痔核の脱出(脱肛)などが主なものです。
薬によって多少症状が軽くなることもありますが、内痔核が消えてなくなることはないので薬によって“完全に治る”ことはありません。そのため外科的に手術が必要となる場合もあります。排便などによって痔核(静脈瘤で膨らんだ直腸粘膜)が出てくるようになったなら、一度病院で診察されるのがいいでしょう。
甲状腺とは、首の前側に気管を取り巻くように存在する臓器で、体の新陳代謝を盛んにするホルモン(甲状腺ホルモン)を作っています。
甲状腺の病気にはホルモン分泌量の異常をきたすバセドウ(氏)病、橋本病といった、その原因が免疫に関連した病気や甲状腺にできる腫瘍などがありますが、外科での手術治療を要するのは、主に甲状腺腫瘍(良性腫瘍および、がん)と内科的治療が困難なバセドウ病です。バセドウ病とは甲状腺が腫大し、甲状腺ホルモンの分泌が多くなりすぎた状態であり、手術で甲状腺の大部分を切除することによって根本的な治療が可能です。腫瘍では腫瘍の位置に応じた切除を行い、がんの場合は頸部のリンパ節郭清も併せて行います。
甲状腺がんは他のがんに比べ、予後は良好であり、例えば甲状腺のがんの中でも頻度が高い乳頭状腺がんという腫瘍は予後が良く、手術から10年後に生存している方が90%以上と言われています。
A.乳がんは、乳腺から発生する悪性腫瘍を指します。男性にも乳がんは発生しますが、女性患者100人に男性患者1人の割合です。
日本において乳がんは増加の一途をたどっており、発症のピークは45~50歳で、胃がん、大腸がん、肺がんに次いで4番目に死亡率が高いがんとなっています。乳がん患者数の多いアメリカでは、女性の8人に1人が生涯の内に乳がんを経験しているという統計が出ており、日本でも現在は女性の23人に1人の頻度ですが、近い将来それに近い状況になるかもしれません。1987年以降、乳がん検診は法律で義務づけられており、主に問診と医師が見て触って診断する「視触診」という方法で実施されてきました。
しかし、近年、視触診のみでの検診の有効性を示す根拠は必ずしも十分でないといわれ、早期発見の目的のために検診に乳房X線撮影(マンモグラフィ)を加えることが法令で定められました。マンモグラフィの導入により、検診で乳がんが発見される割合が、従来は検診1000人に乳がん患者が1人発見されていたものが、検診1000人に2.4人の乳がん患者が発見されるようになり、約2.4倍に検診精度が向上しました。マンモグラフィの対象は40歳以上の女性で、40歳代は2方向、計4枚、50歳以降は1方向、計2枚の撮影を2年に1回施行することになります。
乳がんは手術や内分泌療法、化学療法などによる治療がほかのがんに比べて良く効き、比較的治りやすいがんです。また、早期発見により、治癒する可能性が高まります。手術に関して言えば、女性にとって乳房の喪失ということが大きな問題ですが、最近では乳がんなら乳房をすべて切除してしまうという画一的な手術は行われなくなっています。施設によって差はありますが、日本全体で約30%の乳がん患者さんに乳房を残す乳房温存療法が行なわれています。早期乳がん(2cm以下の非浸潤がん)であれば、乳房温存手術が可能となります。
また、乳房温存が無理な場合でも、胸の筋肉を残す胸筋温存乳房切除術が行われることがほとんどです。どうしても乳房喪失にこだわる方には、形成外科的に、自身の腹壁の筋皮弁を用いて乳房を再建することも行われています。
A.気胸とは肺に穴があき、肺の表面と胸壁との隙間(胸腔)に肺から漏れ出た空気が溜まってしまう状態のことです。
肺の外側に溜まった空気によって肺が押しつぶされるため、呼吸困難を生じたり、胸に痛みを覚えたりします。
一般的に自然気胸(原発性気胸、続発性気胸)と外傷性気胸に分類され、原発性気胸では肺の表面にできた小さい袋(気腫性肺嚢胞)が破裂して気胸を生じます。15歳から20歳代のやせ型の男性に多いとされます。
続発性気胸は肺の疾患に引き続いて気胸をきたすもので、60~70歳代に発症のピークがあり、原因としては、肺気腫、気管支喘息、肺結核、肺炎、肺癌などがあります。
特殊な例として、月経時に反復する女性特有の気胸(月経随伴性気胸)もあります。
治療には保存的療法と手術療法があります。保存的療法には胸腔ドレナージ法(胸腔の中に細いチューブを挿入して、溜まった空気を持続的に吸引する方法)と胸膜癒着療法(胸腔内に薬剤を注入し、肺と胸膜を癒着させる方法)があり、侵襲が少ない利点があるものの、再発率が手術療法より高い欠点があります。
手術治療は胸腔ドレナージを施行しても肺が充分膨らまないもの、空気の漏れが続くものに行われますが、近年、ビデオ内視鏡を使用した胸腔鏡下手術が普及しており、従来の開胸手術に較べて手術侵襲が小さく、疼痛が軽く、早期の社会復帰が可能などの利点があります。
とくに原発性の自然気胸に対しては、早期に胸腔鏡下手術を行うのが標準的治療となりつつあります。
A.当院で行っている手術は、食道手術(食道裂肛ヘルニア手術、咽頭喉頭頚部食道切除術、食道亜全摘術など)、胃手術(幽門側胃切除術、噴門側胃切除術、胃全摘術、穿孔性胃潰瘍閉鎖術など)、腸手術(虫垂切除術、小腸切除術、回盲部切除術、右半結腸切除術、左半結腸切除術、低位前方切除術、直腸切断術、大腸全摘術、腹腔鏡補助下結腸・直腸切除術など)、肝・胆・膵臓手術(肝左葉切除術、肝右葉切除術、肝区域切除術、腹腔鏡下胆嚢摘出術、総胆管切石術、拡大胆摘術、胆道再建術、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術など)、乳腺手術(乳房切除術、乳房温存手術、乳房再建術など)、肺手術(肺葉切除術、区域切除術、胸腔鏡下肺嚢胞切除術など)、甲状腺手術、鼠径ヘルニア手術、下肢静脈瘤手術、痔核手術など消化器外科および腫瘍外科を中心に、年間250~300症例の手術を行っています。手術を受けられた方の社会復帰は平均で術後約17日でした。